鈴木 隆司

鈴木 隆司 教授
すずき たかし

「大学で文学を学びたい」と言ったら、「そんなもの勉強しても役に立たない」とか、「生きていく上では必要ない」とか言われた(あるいは、人から言われるのではなく自分でそのようなことを思った)経験がある人もいると思います。私自身は、最初は薬学部に入学して途中で文学部に転学部したこともあって、周りからそのようなことをたくさん言われてきました。でも、「生きていく上で必要なこと」「役に立つこと」って何でしょうか。おそらく、大学で学ばなくても、ヒトが生き物として生きていくことはできます。言い方を変えれば、大学で学ぶことのほとんどは、「生きていく上で必要なこと」ではありません。それは、文系・理系を問わず同じです。むしろ、大学での学びはヒトが人間としてよりよく生きるためのものだと思います。その中には、物質的なものも精神的なものもあります。目の前にある物事に対応するのにすぐに役に立つものもあれば、すぐには役に立たないけれど人生をよりよく生きるために大切なものもあります。また、それは万人に共通するものばかりでもありません。それぞれの人生に本質的な意味で「役に立つ」学びはどのようなものか。それを考えるための素材を提供して、学生と一緒に考えていきたいと思っています。

鈴木ゼミブログ

連絡先非公開
担当教科(大学)日本古典文学概論、中古文学講読Ⅰ・Ⅱ、演習Ⅰ・Ⅱなど
(大学院)日本文学演習Ⅰなど
専門領域中古文学
所属学会中古文学会、和歌文学会
経歴京都大学文学部卒、京都大学大学院文学研究科博士後期課程学修退学、博士(文学)。
高知大学専任講師、助教授、准教授を経て、平成30年4月より現職。
主な業績

『伊勢物語古注釈大成 第二巻』(共著 平成17年5月 笠間書院)
『伊勢物語古注釈大成 第三巻』(共著 平成20年9月 笠間書院)
『伊勢物語 虚構の成立』(共著 平成20年12月 竹林舎)
「伊勢物語享受の一側面―新古今集・新勅撰集の伊勢物語歌―」(『国語国文』69-7 平成12年7月)
「蜻蛉日記序説―いわゆる「兼家の求婚」場面を中心に―」(『国語国文』81-10 平成24年10月)
「蜻蛉日記冒頭場面追考」(『国語国文』84-7 平成27年7月)

担当する授業の内容・魅力

「単語を覚えたり文法を勉強したりするのが苦手で、高校までの古文の勉強が苦手だった」という声を聞くことが多くあります。もちろん、古文を正しく訳す上で単語や文法の勉強は大切なことではありますが、それらが古典文学を学ぶことのすべてではありません。単語や文法の勉強は、高校の授業や受験勉強では目的になりがちですが、実際には古典文学を読み、楽しむための手段の一つです。担当する授業を例に挙げると、「日本古典文学概論」では、そのような高校までの学習と大学での学習の違いを知り、大学で古典文学を学ぶために必要な知識や考え方について、具体的な事例に則して説明していきます。「中古文学講読Ⅰ」では、「恋愛と結婚」にテーマを絞って、当時の恋愛と結婚についての常識はどのようなもので、それに基づいて作品をどのように読めるかということを考えていきます。視点が変わると、今までに気付かなかったことに気付いたり、新たなおもしろさを発見できたりすることもあります。それは古典に限ったことでも、文学に限ったことでも、勉強に限ったことでもありません。授業の中でさまざまな古典文学の作品を読み、現代とは異なる価値観に触れることを通して、一つの固定された視点だけにこだわることなく、柔軟に物事を捉える力を身につけられるようになることを目指しています。

研究の魅力

古典文学の作品がどのように作られ、当時の読者にどのように読まれ、後の時代にどのように読み継がれて現代に伝わってきたのか、ということを中心に、平安時代の散文作品(物語や日記文学)を研究しています。現代の私たちは、古典文学を読む場合に、無意識のうちにも現代の常識や価値観に従って作品に描かれたことを理解してしまいがちですが、それは作品が書かれた時代の常識とは異なることも多くあります。また、現代まで読み継がれ伝わった古典文学の作品は、時代によって現代とは一致しないさまざまな理解がされている場合もあります。作者はどのようなことを考えて作品を書き、同時代の常識を共有する読者は作品をどのように理解していたか、後のそれぞれの時代に作品はどのように理解されながら現代に伝わってきたか。そのようなことを考えてみると、古典文学の作品の新たな一面が見えることがあります。

紹介したい一冊瀬戸内寂聴『十人十色「源氏」はおもしろい』

『源氏物語』全文を現代語訳したことでも知られる瀬戸内寂聴が、多くの作家・研究者(丸谷才一、俵万智、清水好子、大庭みな子、秋山虔、氷室冴子、橋本治、五木寛之、久保田淳、八嶌正治、三島由紀夫、竹西寛子)と行った対談の記録です。さまざまな源氏物語観が凝縮されていて、興味深く読むことができます。現代語訳や「あさきゆめみし」などの漫画でもよいので、『源氏物語』のあらすじや登場人物を一通り知った上で読むと、より理解が深まると思います。