林 貴哉

林 貴哉 講師
はやし たかや

大学進学以降、大阪府内の学校(小・中・高校、大学、日本語学校)や兵庫県内のNPO法人に、教員やサポーター、ボランティア、スタッフ等として関わり、日本語教育や母語教育、定住外国人支援、多言語情報発信などに取り組んできました。
このような実践を通して様々な背景をもつ人々と出会ってきましたが、その中でも私が主な研究対象としているのは、難民としての移動を経験したベトナム出身の方々です。これまで日本では大阪府や兵庫県、アメリカ合衆国ではカリフォルニア州において、ベトナム系移住者が多く暮らす地域でのフィールドワークを行ってきました。
日本語教室で教育実践を行うだけでなく、在日外国人の生活の現場に行き、そこで暮らす人々の人生の物語に耳を傾けると、言語学習について「当たり前」だと思っていたことが覆されることがあります。このような経験は、日本語教育や外国人支援の実践を行う際に一人ひとりに合ったサポートを行うために必要な知識と経験をもたらしてくれます。このように研究と実践を進めながら、それらをいかに往還していくかを考えています。

林ゼミブログ

連絡先hayashi_takaya_x★mukogawa-u.ac.jp
(注)★を@に変えてお送りください。
担当教科日本語学概論、日本語学特講、日本語表現演習、異文化間コミュニケーション、英語で読む日本、海外文化体験演習など
専門領域応用言語学、在外ベトナム人研究、日本語教育学
所属学会言語文化教育研究学会、日本教育社会学会、公益社団法人日本語教育学会、日本オーラル・ヒストリー学会、JASAL(日本自律学習学会)
経歴大阪大学文学部人文学科卒業。
大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻博士前期課程修了。修士(文学)。
大阪大学大学院言語文化研究科言語文化専攻博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
大阪大学博士課程教育リーディングプログラム「未来共生イノベーター博士課程プログラム」修了。
甲南女子大学、同志社大学、立命館大学にて授業を担当(非常勤)。大阪大学国際教育交流センター特任研究員、特任助教を経て、現職。
主な業績

書籍
・『リフレクティブ・ダイアローグ:学習者オートノミーを育む言語学習アドバイジング』(2022年、大阪大学出版会)(共訳)

論文
・「マイナー文学としての『ベトナム難民少女の十年』:漢語を拠りどころにローカルな声を生きる」 『アジア太平洋論叢』第24号、pp. 185-206、2022年(共著)
・「日本の大学におけるタンデム学習の意義」『JASAL Journal』第1巻第1号、pp. 104-128、2020年(共著)
・「外国人生徒を「特別扱いする学校文化」の形成に関する考察 : 大阪府立特別枠校の事例から」『未来共生学』第6号、pp. 299-327、2019年(共著)
・「ベトナム人集住地域における複数言語の使用と学習に関する研究:日本に定住した中国系ベトナム難民のライフストーリーから」『言語文化教育研究』第16号、pp. 136-156、2018年(単著)

担当する授業の内容・魅力

皆さんの身の回りには「言葉や文化の壁」は存在していますか。そのような「壁」はなぜ存在しているのでしょうか。また、「身の回りに言葉や文化の壁はない」と感じている人は、誰か他の人の視点に立ったら、日常生活の中で「壁」となることはないか探してみてください。
異文化を理解するための手法にエスノグラフィーがあります。「異文化間コミュニケーション」では、受講生が身近なコミュニケーションを見直し、また、「他者」の視点から日常生活を捉え直せるように、エスノグラフィーの技法を紹介します。その上で、様々なコミュニケーションの現場の事例を分析していきます。
私自身、中学生の時に「日本語教室」に通っていたクラスメイトがいたという経験が今の研究や実践につながっています。大学では文献を読んだり、調査をして他のケースと比べたりしながら、自分の経験に向き合う機会を得ました。私の担当する授業では、受講生の皆さんにも気づきをもたらしたり、行動できるきっかけを作れたらと思っています。

研究の魅力

日本は1978年から2005年までベトナム難民の定住受け入れを行ってきました。ベトナム難民が日本での生活を始める前に受講することができた日本語教育は3か月から4か月程度で、それ以降、日本語教育を受ける機会がないまま40年近く日本で生活されている方もいます。私は、難民として来日したベトナム系移住者が日本での生活の中でどのように日本語を学習してきたのかを明らかにすることを目的に研究を開始しました。
しかし、調査を行ってみると「日本での生活を始めて以降、日本語の勉強はしていない」と語る人、「ベトナム語がわかる人がいるから大丈夫だ」と語る人もおり、「日本語教育」の研究としては思うような結果が出ませんでした。逆に言えば、日本で生活しているからといって、日本語を習得して日本社会に溶け込んでいくというばかりでなく、多言語を用いて生活している人もいるということがわかりました。
そこで、ベトナム系移住者が日常生活のなかで「ことば」をどのように使用しているのかを観察したり、ベトナム系移住者が自身の「ことば」をどのように捉えているのかを理解しようと試みてきました。日常生活の中での「ことば」は掴みどころがなく、記述することは難しいですが、言語学だけでなく、人類学や社会学などの知見や手法を参照しながら研究を行っています。これまで記述されてこなかった、移住者から見た「現実」を書いていく作業に魅力を感じています。

紹介したい一冊『日本語を書く部屋』(リービ英雄)について紹介します。

東京都新宿区にある「部屋」。そこで日本語を「書く」のは、少年時代を香港、台湾で過ごし、その後、アメリカ合衆国と日本を移動しながら生活してきたリービ英雄さんです。本書で焦点が当てられているのは、日本語を聞いたり話したりすることでも、読むことでもなく、また、日本語を他の言語に翻訳することでもなく、自分の「日本語」で自分の考えを「書く」ことについてです。その中で「日本語は誰のものなのか?」という問いが示されます。日本語を「母語」とする人だけではない多様な日本語の使い手と自分がどのように向き合い、また、自分自身も日本語を書くことに対してどのように向き合っていこうかと考え直すきっかけとなる一冊です。