羽生 紀子

羽生 紀子 教授
はにゅう のりこ

古典文学の雅やかな世界が好きで国文学科(現在の日本語日本文学科)に進んだはずが、気づけば雅にはほど遠い、俗文学といわれる江戸時代文学の研究をしています。でも本質的に俗な人間なので、それが合っていたのでしょう。井原西鶴(江戸時代の浮世草子作者)や出版等にかかわる論文を書いて何十年、になろうとしています(具体的な数字は割愛)。
進学時の目的や気持ちとは、ちょっぴりずれてしまいましたが、それは大学に入ってから知った新たな世界、新たな人との出会いによってもたらされたもの。自分にとってのベストな選択だったのだと、いまは思っています。学生のみなさんにも、大学での出会いによって、自分らしい道を見つけてもらいたいな、と思いながら、日々を過ごしています。

羽生ゼミブログ

連絡先hanyu★mukogawa-u.ac.jp
(注)★を@に変えてお送りください。
担当教科日本文学演習Ⅱ(大学院)、日本古典文学概論、近世文学講読Ⅰ・Ⅱなど
専門領域日本近世文学、日本出版文化史
所属学会日本近世文学会、日本出版学会、全国大学国語国文学会
経歴武庫川女子大学文学部国文学科卒業。武庫川女子大学大学院修士課程、博士後期課程修了(その間、日本学術振興会特別研究員(DC1))。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員(PD)、イギリス・レディング大学、ロンドン大学客員研究員等を経て、2004年、武庫川女子大学講師。2011年准教授、2019年より教授。
主な業績

著書
・『西鶴と出版メディアの研究』(第22回日本出版学会賞奨励賞受賞)和泉書院、2000年
・『近世上方狂歌叢書』(共編)19~29巻、和泉書院、1993年~2002年
・『近代大阪の出版』(吉川登編、共著)創元社、2010年

論文(最新5本)
・「『武道伝来記』巻五の一「枕に残る薬違ひ」の検討―『新可笑記』の三層構造の先がけとして―」『武庫川国文』第92号、2022年3月
・「『武道伝来記』巻一の四「内儀の利発は替た姿」の検討―黒田官兵衛・竹中半兵衛、さらに前田利家の逸話―」『武庫川国文』第93号、2022年9月
・「『新可笑記』巻四の一「船路の難儀」の検討―「滅びの武将」源義経の都落ちと静・郷御前―」『日本語日本文学論叢』第18号、2023年2月
・「『新可笑記』巻三の五「取りやりなしに天下徳政」の検討―鎌倉幕府第九代執権北条貞時と永仁の徳政令・霜月騒動・平禅門の乱―」『武庫川女子大学紀要』第70巻、2023年3月
・「『新可笑記』巻四の二「歌の姿の美女二人」の検討―「滅びの武将」源実朝の暗殺と源氏将軍の終焉―」『武庫川国文』第94号、2023年3月

その他については、https://researchmap.jp/read0122267をご覧ください。

担当する授業の内容・魅力

近世文学を中心に、古典文学関係の授業を担当しています。古典文学の中でも、近世文学は学生にとって一番なじみがないところでしょう。でも、読んでみれば、現代社会と同じ側面、あるいはそのルーツといえるものがみえてきたりして、意外と身近に感じられることも多いです。きっと、イメージとは違う江戸の世界が広がることでしょう。文学が政治・経済と深くかかわり始める時代ですので、授業では時代背景なども丁寧に掘り下げています。
ただし、基本的に江戸時代文学は娯楽性が強いものですので、「おもしろがる」ということも忘れないようにしたいところです。浮世草子を書いた井原西鶴も、自分の作品が大学の教室で「勉強」されているなんてことを知ったらびっくりすることでしょう。作品を楽しむことを基本としつつ、人間とは何か、社会とは何か、ということを、作品を通して、自分なりに考えてみてほしいと思っています。

研究の魅力

出版というメディアが文学にいかなる影響を及ぼしたのか、という観点から研究しています。日本では奈良時代から出版技術が存在していましたが、商業出版が本格化したのは江戸時代のことでした。現代では当たり前のことですが、文学が商品になったのは江戸時代のことだったのです。それは同時に、作品が「出版メディア」という媒体によって発表されるようになるという、日本文学史上のメディア革命でもありました。作者をめぐる環境は激変し、読者のことを、より意識する時代がやってきたのです。版元(現代の出版社)はプロデューサーとして、作品の成立に積極的にかかわるようになりました。近世文学(江戸時代文学)は「古典」「古文」に分類されますが、このような「出版」という観点からは、「近代」の側面をもっています。「古典性」と「近代性」を有する、とても面白い時代だというのが、近世文学に対する私の見方です。
研究の際には、文学作品のみならず、歴史史料や他分野の資料(医学や料理など)を見ることが必要になることも多いです。自分の容量を超えそうになることもよくありますが、研究資料のデジタル化の恩恵を受けつつ、わくわくしながら新しい研究に取り組んでいます。

紹介したい一冊宮下志朗『本の都市リヨン』(晶文社)

フランスのルネサンス期、リヨンはパリと並ぶ出版都市として隆盛を誇っていました。しかしその黄金期はわずか百数十年。出版都市としてのリヨンは歴史の舞台から姿を消してしまいました。その興亡を、社会的・経済的背景を掘り起こすことで、多角的に描き出したのがこの本です。学部から大学院生時代にかけて、私は出版と文学との関係を研究対象にしたいと考え、特に大学院生時代は、江戸時代の出版機構についての研究を進めていました。そこからさらに、出版と文学との影響関係を表現していこうと考えていたのですが、それまで行われていた日本の出版研究や、出版と文学についての研究の手法では、何か足りないような、もどかしさを感じていました。そんな時にふと海外に目を向けたところ、そこには、私が求める方向性の研究がありました。本書は、私がぼんやりとイメージしていた研究の形を明確にし、その方向性に自信を与えてくれた一冊です。