2024.10.15

vol.6 「たまものまえ」覚書(寺島修一)

maru 古典部リレーエッセイ

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武庫女日文古典部 リレーエッセイ vol.6(2024年10月)
「たまものまえ」覚書

寺島てらしま 修一しゅういち

 水曜日のカンパネラが今年2024年3月に「たまものまえ」という曲をリリースしました。「桃太郎」「エジソン」「織姫」「聖徳太子」など世界伝説の偉人伝シリーズ?の一曲で、妖怪が登場するドラマの主題歌ということです。が、「たまものまえ」は、これまで曲名に採用されてきた一連の人物の中ではやや知名度が劣るようにも思われます。Googleで「たまものまえ」を検索してみると、検索候補に「たまものまえ 意味」と出ますから、気になる人も多いのでしょう。「たまものまえ」とは何か、解説してみましょう。

 「たまものまえ」は伝説の女性の名前で、漢字を当てると「玉藻の前」、表記は「玉藻前」が普通です。玉藻前とは何者か、ここでは手っ取り早く、『日本人名大辞典』(ジャパンナレッジ)から引用しておきます。

伝説上の美女。平安時代後期の鳥羽法皇の寵姫だが、その正体は金毛九尾のキツネ。天竺(インド)と中国で悪行をかさね、日本に飛来したといわれる。陰陽師安倍泰成にみやぶられて射殺され、その霊は下野(栃木県)那須野の殺生石となるが、源翁心昭に杖で粉砕された。室町時代以降、謡曲、人形浄瑠璃、歌舞伎などの題材となった。

 金槌のことを玄能げんのうといいますが、その呼び名は源翁和尚が殺生石を割ったことに由来します。殺生石は現在も那須野にあり、硫黄の匂いが立ちこめているそうです。2022年3月にはこの殺生石が割れたこともニュースになりました。

 必ずしも説明的とは言えない「たまものまえ」の歌詞ですが、上記の内容だけでも歌詞はかなり理解できます。冒頭は、

九尾の狐が鳴く こんここん
たまたま玉藻前 こんここん

とあって、玉藻前が九尾の狐であることが示されていましたが、

野暮な陰陽師は追い払って
魑魅魍魎のダンスを踊りましょう

と、陰陽師を追い払いたくなるのは、陰陽師が玉藻前の正体を見破ったからですし、

たまものだんす バブリーな扇子
那須野のお立ち台でぶち上げて

と、玉藻前が踊るお立ち台が那須野にあるのは、玉藻前が姿を変えた殺生石が那須野にあるからです。

 また歌詞の、

きゅうび きゅうび きゅうびこり

のところ、「きゅうび」が「九尾」であることは見当がつきますが、「こり」がわかりません。これは「狐狸こり」、即ちキツネとタヌキのことで、「九尾狐狸」は九尾の狐を表すのに用いられる語です。

 なお、一箇所だけ気になるところがあるので、触れておきます。「百鬼夜行」という言葉を「ひゃっきやこう」と歌っていますが、魑魅魍魎が夜中に行列をなす百鬼夜行であれば、「ひゃっきやぎょう」がいいでしょう。音の響きを考えて「やこう」と歌っているのかもしれませんが、再録音の機会があれば一考してほしいと思います。

 本稿を書くに当たって何度となく「たまものまえ」を聴きました。「こーんこっこ こーんこっこ」のリフレインがしばらく頭から消えそうにありません。

tamamo01

『画本玉藻譚』(広島大学図書館所蔵)
出典: 国書データベース,https://doi.org/10.20730/100220237

◇次回は11月中旬公開予定