寺島 修一 学科長
1.「けりをつける」という言い方があります。簡単に決着が付かなかった物事について一定の結論を出してその物事をおしまいにする、というくらいの意味です。この「けり」とはなんでしょうか。物事を「蹴りつける」ことによって片付けてしまう? そうではありません。これは助動詞の「けり」なのです。古文で用いられる過去の助動詞です。和歌や俳句が「けり」で終わることが多いことから用いられるようになったと言われています。「けりをつける」という表現は「けり」という言葉が日本の文化の中に確かな地位を占めていることの一つの証しになります。そしてこうした表現が可能になる過程には、日本語において「けり」という語がどのように用いられてきたかという、言葉と文化の関わりの問題が隠れています。その探究の第一歩は「けり」が過去の助動詞であることを知ることから始まります。
2.新型コロナウィルス感染症はわたしたちの生活を大きく変えました。それがどのような形に落ち着くかまだはっきりしませんが、以前と同じ生活に戻ることはないだろうと想像されます。さまざまな変化がもたらされましたが、その一つとしてコミュニケーションのあり方の変化を挙げることができます。仕事はテレワークが推奨され、大学の授業も遠隔の形態が加わりました。その結果、人とのコミュニケーションは、あるときには画面越しになり、あるときには文字や音声を介するものになりました。そのような傾向は今に始まったことではありませんが、明らかにその流れは加速しています。そうしたコミュニケーションの場では誤解が生じやすくなります。しかも一方で、繰り返して読んだり聞いたりすることができて、自分が使った言葉が証拠として残るようになります。リモートの意思疎通では、いっそう注意深いコミュニケーションのあり方が求められるのです。
3.言葉と文化の豊かな関係を知り、ことばを自在に用いて確かなコミュニケーションを取る。言葉を自在に操るためには言葉と文化に関する豊かな知識が欠かせません。ある事柄を伝えたいときに、3通りの言い回しから選ぶよりも、10通りの言い回しから選ぶ方がより的確な選択ができるでしょう。そうした表現のバリエーションは言葉と文化の知識に支えられています。日文学科で学ぶ事柄は、豊かなコミュニケーション能力の養成を通じて、社会人として活躍することにつながってゆくのです。
学科長メッセージ・バックナンバー
寺島修一 学科長(2018年4月)