本学科教員のS・Kが、北のどこかの大学にいるK・Sのもとで、2026年4月から7月まで、食を育むことばの研究をする。その忘備録の一部をお送りする。
「まこまない」という、動詞の否定形のような場所に、食の書籍が集められた六花文庫があります。訪ねてみると「ごゆっくりどうぞ」という声が招き入れてくれました。奥には、ローテーブルを囲んだ背もたれの大きな椅子があります。窓際には一人用のクッションのきいたソファが、書架の前には平机と椅子があります。平机に着席すると、「どうぞ」と水が運ばれてきました。ここでは、先ほどの声の主が唯一のスタッフで、コーヒーを注文することができます。地元の人でしょう、ふらっと立ち寄って、その場にいた馴染みに声をかけ、少し間隔を空けて席につき、小一時間、一人で過ごし、小声でさよならの挨拶を交わす、そんな訪問者が何人もいます。こうした常連は、あのスタッフがよくご存じで、コーヒーカップの御代わりにお白湯の婦人、お隣さんにはコーヒーをと、注ぎ分けていました。

六花文庫
専門図書館の書架は、配架・分類が独特です。食文化、食文化史のなかに、いつも目にしていた馴染みの日本語学分野の図書と、社会学の図書が混在しています。その棚から、『食べることの社会学』(デボラ・ラプトン著)を引いてみます。
食べ物と食べることは、(中略)身体的な感覚や(中略)強烈な感情と絡み合っている。これらは、主観性の中心であり、他者と自らを区別する感覚でもある。(p.60)
食べ物の好き嫌いは、「手に入る食品の選択肢が多くなっている社会」(p.249)では、「性別や民族性、ライフサイクルのどこにいるか、(中略)文化における地位、といったその人の主観性の側面を表している」(p.249)とのことです。大学に戻って、こちらの図書館だとどのような社会学の本があるのか、ちょっと調べてみました。
| うらら | ナマケグマ ツインテールしているような耳の毛が特徴的 |
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イラストは、「うらら」という、北の大学図書館公式キャラクターです。リスは構内に多いそうですが、あいにくお目にかかったことはなく、うららが北の地で会う初めてのリスです。うららが案内する総合図書館のほか、構内に11館、学科ごとの専門図書館があり、ほかにも博物館や文書館があります。博物館には様々なはく製が展示してありましたが、リスはどうだったでしょう。トナカイやナマケグマはユーモラスで、ホッキョクグマや馬の毛で再現したマンモスは迫力があって、と気を取られるものが多く、リスは思い出せません。再訪して観察し、次は名物の西興部村(にしおこっぺむら)の牛乳を使ったソフトクリームも食べてみたいものです。

さて、六花文庫の図書では西洋の、大学図書館にあった『フーディー』(ジョゼ・ジョンストン, シャイヨン・バウマン著)ではアメリカの食に関する社会学的知見が著されていました。アメリカのほうも少し、要約して引用します。
大阪で、二十代前半の男女に囲まれながら、家族経営の小さな店に入るために商店街で30分間並んだ。ようやく料理が供されると、客がそれぞれ携帯電話を取り出して写真を撮っている、こうした振る舞いがあまりに普及し、ひどく目立つものになったため、経営者が写真を撮るのを控えるよう客にお願いする貼り紙を掲げていた。客の大半は日本語を話していた。しかし、地元の人には見えなかった。明らかに、年齢や背景を異にしているにもかかわらず、私たちはみな、その店についてインターネットで調べて読み、それにふさわしい環境でエキゾチックな料理を食べたいという深い欲望を形成していた。(p.19)
「フーディー」とは、ここでは「食を、生物学的な生命維持の手段としてだけでなく、自分のアイデンティティの重要な一部として、そして一種のライフスタイルとして考える人」(pp..25-26)と定義します。博物館再訪の理由の一つとして、西おこっぺ村のソフトクリームを食べなくちゃ、と決心する私も、フーディーということでした。

